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新刊「ザ・ビートルズ・リリックス 名作誕生」 (ハンター・デイヴィス著 TAC出版刊) 発売が予告されてからずっと楽しみにしていた。 久々に「期待の一冊」という表現がぴったりの本である。 その理由を以下に列挙しよう。 ★ビートルズがまだ解散前(68年)に刊行された「公認ビートルズ伝」の著者が久々に放つビートルズ本であること。 ★「歌詞」について深く研究するというユニークな書であること。 もちろん、歌詞の解釈を解いた本はこれまでもあるにはあった。しかしそれらは、英語に詳しいビートルズ研究者が完成形の歌詞を対象として、その意味をどう読み取るかを提示したものだった。 ★本書は、コレクターや図書館が所蔵する「手書きの歌詞原稿」までさかのぼり、それら貴重な図版をオールカラーで共有し、完成形までの変化を吟味していくという、かつてないほどわくわくするアプローチであること。 それにしても、「自筆歌詞原稿を駆使した歌詞の研究」とは。 こればかりは、誰でも研究できるジャンルではない。 そもそも著者は公認「ビートルズ伝」執筆のためにメンバーと交流を重ね、歌詞の自筆原稿を当時から何枚もプレゼントされているのだ。 それだけではない。 自筆歌詞は、コレクターが所蔵するプライヴェート・コレクションや、博物館や図書館の所蔵品になっているものも含め、図版として本書にたくさん掲載されているのだ。 はやる心を抑えるように、帯のあおり文句や、帯の背表紙のあおり文句まで、じっくりなめるように眼を通す。 これは自分としては異例のことだ。期待している証といってもよい。 いよいよ分厚い扉を開く。 いつもなら読まずに飛ばす冒頭の「INTRODUCTION」の文章もきちんと読もうと決意する。 2,3ページも読めば、手書き歌詞の本文へと突入するだろう。 これも自分としては異例のことだ。それほど、この本にきちんと対峙しようとしているのだ。 ところがこの「INTRODUCTION」、予想以上に長いものだった。 いつ本文に入るのかすら、事前に知らない状態を保ちたいため、いつ終わるかとドキドキしながら読んでいく。 なんと、「INTRODUCTION」は28ページもあった(笑)。 そしていよいよ本文が始まる。1曲目は当然、デビュー曲「ラブ・ミー・ドゥ」だ。 最初の書き出しからして秀逸である。 「〈ラヴ・ミー・ドゥ〉の手書きの歌詞は、今のところ見つかっていない――この本のような企画にとっては、あまり幸先のよくないスタートだ。」から始まるのだ。 なんと誠実で、すがすがしくて、面白い書き出しか。 初期の曲はシンプルで自分たちでも覚え易いので紙に書き出す必要がなかったから存在していないものが多いというわけだ。 おそらく著者としては読者に「ここは少しだけ我慢してくれ。もうじき、めくるめく自筆原稿の世界が待っているから」と言いたいところだろう。 一方、いきなり1曲目から、著者の分析だけで眼からウロコの新解釈が呈示されている。 〈ラヴ・ミー・ドゥ〉の歌詞"Love, Love me do"を、「愛しき人よ 愛しておくれ」と解釈してみせるのだ。 この箇所はこれまで「愛して 愛しておくれ」と訳すのが定説となっていたが、そうなると第2弾シングル「プリーズ・プリーズ・ミー」(『僕を、どうか喜ばせて』の意)の対になっていたことになる。 凄い新説である。 しかも反論が浮かばない。 既に研究し尽くされたと思っていた「ラヴ・ミー・ドゥ」の歌詞対訳さえ、このような知的刺激を提示してくれる本なのだ。 歌詞原稿の図版など無くとも読ませる面白さ、といえば伝わるだろうか。 この本の底力といえよう。 作者の自筆歌詞原稿の図版は、そのB面曲「P.S.アイ・ラヴ・ユー」にも無い。 その代わり、なんと「スウェーデンのファンが歌詞を書き出したものに、ポールが自筆で1行だけ訂正を入れて返したもの」というマニアックな図版を紹介している。 (「INTRODUCTION」では、匿名を条件に掲載を許諾してくれたコレクターがいかに多かったかも明かされている。) ビートルズ評伝のときには感じられなかった著者ハンター・デイヴィスの「ユーモア」をちょっとしたときに感じるのも本書の特長だ。 例を挙げよう。 著者は最初に「今、彼らの初期の歌詞を読み直してみて、もっとも興味深い側面は性的な描写がいっさいないことだ」ときっぱりと書く。 「当時の親たちは彼らを危険視したが、今、歌詞を見てもとてつもなく健全で健康的で無害だとわかる」 「エルヴィス、チャック・ベリー、リトル・リチャード(あるいは少し後にデビューするミック・ジャガー)が意図的に卑猥さを打ち出していたことに比べると、ビートルズは圧倒的にうぶな作品世界だった」 「実際、sexやsexyという単語が登場するのはビートルズの全作品中、1曲だけ。Sexy Sedie。これですらsexと何の関係もない」と書く著者。 なるほど、ほんとにそのとおりだ。 読者が納得しながら読み進んでいくと、「プリーズ・プリーズ・ミー」の歌詞分析に差し掛かる。 この歌はかなり艶っぽい歌詞である。著者はそれについてどう分析するのか。 「シンガーは自分の恋人が、自分が彼女を喜ばせているようには自分を喜ばせてくれない、と不平をこぼす。もしそこに性的な意味が意図的にこめられているとしたら、ビートルズの歌詞は基本的にセックスと無縁だというわたしの説は一気に危うくなってしまうが、かりにそうだったとしても、それはかなりうまく隠されている。」と、著者は敢えて文章に「自分の意地っ張りな人間味」を盛り込んでみせたりするのだ。 この曲には、こんな分析もある。 「『Come on, come on, come on』でのクレッシェンドが、この曲をエキサイティングな仕上がりにしている。いいだろう、そこはどう考えてもセクシャルだ――だが早めの例外は、全体的な規則の正しさを証明するという見方もある。」とすら言ってのけることで、ユーモアたっぷりに「ビートルズの曲に性的な歌はない」説を強調しているわけだ。 そのわずか1ページ後、「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」の解説に突入する。 これまた性的で意味深な「You know what I mean」という歌詞がある。 その部分について、著者はこう解説する。 「これはリヴァプールっ子にかぎらずイギリスの若者全般が愛用していた、ほとんど意味のない咳払い代わりのフレーズだが、同時に性的な経験をほのめかす、思わせぶりな雰囲気もたしかに持ち合わせている。いいだろう、これも例外のひとつに数えてもいいかもしれない。」と書いてのけるのだ。 架空の「読者の突っ込み」をイメージしてそれに独りで弁解するそのあり方は、どこか懐かしいものがある。 そうだ、「淀川長治ラジオ名画劇場」だ。 淀川さんの映画解説には、淀川さんが仮想する「辛口な常連リスナー」がしばしば登場するのだ。 淀川さんの映画解説は、たとえばこんな調子だった。 「さあ、今日はウィリアム・ワイラー特集をやりましょうね。なに?『お前の話、退屈で寝そうだから、枕持ってきた』? まあ、あんた失礼だね。」。 (話は逸れるが、放送作家の高橋洋二氏が90年代に『TVブロス』の連載コラム「10点さしあげる」で、この「淀川氏の内なる架空の辛口リスナー」について指摘したときは拍手喝采ものだった。「淀川長治ラジオ名画劇場」のリスナーだった者しかわからないツボだった。)
閑話休題。「ゼアズ・ア・プレイス」では、ハンター・デイヴィスの別のふざけ方も顔を出す。 「タイトルの“プレイス”は実のところ、実在する場所ではない。気分が落ち込んだとき、ブルーな気分になったときに彼が向かう場所は、ドゥルルルルル・・・彼の心なのだ。」と続くのだ。 ドラム・ロールを入れているのである。 更に本書では「ここでのジョンは(〈プリーズ・プリーズ・ミー〉と〈アスク・ミー・ホワイ〉につづいて)みたびブルーな気分に襲われている。全国をツアーし、新曲作りに追われていた彼らが、いまや多大なプレッシャーにさらされていたことを勘定に入れても、やたらと「blue」で韻を踏むことやり口は、いささか安易だと言わざるを得ない。」と続けるのだが、この部分を伏線として、すぐに「アイル・ゲット・ユー」の解説ではこんな表現が飛び出す。 「彼女の事を思っていると、彼は決して――聞いて驚くな――ブルーな気分にならないのだ。」 「まじめな研究書」と「ユーモア」は両立させ得るか? その実験を、実は私も「ビートルズ大学」「ビートルズ来日学」でひそかに行なっている。 だからこそ、本書での作者の試みが果たして成功するのか、この先を読み進めていくときの大きな興味である。
さて、いよいよ次章「ウィズ・ザ・ビートルズ」が近づいてきた。 ここからは、いよいよ自筆歌詞が「ドント・バザー・ミー」「リトル・チャイルド」「ホールド・ミー・タイト」と登場する。(←我慢できずにパラパラと全体を見てしまった。) いよいよ、めくるめく「自筆原稿とともに歌詞分析」の世界が幕を開けるのだ。 全体的に「直筆歌詞原稿」の点数はかなり多い。 オールカラーということで、どのページも文字のインクの色にすらこだわって「淡い色合い」にしており、外国の図書館にある分厚い学術書のような格調をたずさえている。 原価が高くなっても、本の出来栄えを重視して、思いっきりバットを振ってくれた版元の英断に拍手を贈りたい。 こういう名著がきちんと売れれば、また次の日本版刊行につながっていく。 高価ではあるが、そもそもこれだけの自筆歌詞原稿をオークションで集めるとしたら一体いくら必要かをイメージせよ。さすれば、それらを(分析とともに)眼に出来るこの本は、破格の安さであることが理解できるはずだ。 ここは「マストの一冊」と割り切って、ぜひ本棚に揃えていただきたい。 この本、かなり分厚い。読み終えるまでにはかなりの日数を要すのは確実だ。それゆえ、発売される6月26日よりも前に「買い」かどうかを、こうして取り急ぎお知らせする次第。 (一番上の表紙画像をクリックすれば詳細が見られます。)
by B4-univ
| 2017-06-23 04:29
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